本論では「アナタ」を取り上げて、日本語の第二人称を考察してみたい。
今まで、数多くの先行研究が行われている。そのなか、田中章夫(1983)は、「江戸時代に「アナタ」が武士の間で最高の尊敬語として使われていた。しかし、時の経つにつれて、尊敬程度も下がってきた」と述べた[田中章夫『東京語-その成立と展開-』(出版社は明治書院,1983)P.98より。]。一方、「アナタ」は尊敬する意味をあらわす意見もあるようである。そのため、場合によっては、次のような問題点がまだたくさん残る。
たとえば、現在、「アナタ」を使うと、どのような感じを与えるか。さらに、それぞれの場合によって、「アナタ」を使うかどうか、また、どんな第二人称代名詞を使うかなどである。つまり、これらの問題点に関して、いまだに定説と結論がないようである。そして、日本語を中国語に置き換える場合、まだ明らかにされていないようである。そのため、これらの問題点を解決するならば、日本らしい日本語を身につけ、中国人の日本語学習者の一助になれればと思われる。本論では、これらを取り上げて、諸先行研究に基づいて筆者独自の視点と研究成果を述べてみたい。
第一章 先行研究と研究方法(一)先行研究 普段、日本人はあまり第二人称代名詞を使わない。しかし、「アナタ」という第二人称代名詞を使うことがある。いままで、第二人称代名詞、特に「アナタ」については、数多く
の先行研究が行われている。それらをまとめてみると、二つの意味しかないと判明した。つまり、一つは尊敬とする意味であり、もう一つは尊敬としない意味である。
一、尊敬としない意味 ひとまず、中国語に比べると、日本語の第二人称代名詞の使用率は何故低いかについて、遼寧省師範大学の張婷婷(2009年)は中国語と日本語相互翻訳において、張氏は今、大勢の中国の学習者に使用されている『標準日本語』(前編)という教科書における二十四編の日本語会話文を統計して、「あなた」があるところは二箇所しかない一方、中国語版には、第二人称代名詞が出たのは二十三回もあり、日本人の集団主義という考え方が最も重要な原因だとはっきりさせた、と考察した[张婷婷,《中日第二人称的对比研究——以「あなた」与“你”、“您”的对译状况为中心》 (辽宁师范大学),2009年《科技信息》 P551-P552より。]。
次の例としては、日本の和光大学では1992年度に和光大学学生(総計1161人)を対象に、「自己を如何に表現し他者を呼ぶかという言葉の遣い方を通じて、日本語ないし本人の認識のありかたをとらえつつ、我と汝の間係把握のありようを考える」というアンケート調査が行われた[ 1992年度に「共同研究機構委員会」が主催したシンボジウム「文化としての言葉―あなたと私の世界―」を補完する目的で、和光大学学生を対象に行なったアンケート調査 (参考資料:http://www.wako.ac.jp/souken/touzai93/tz9313.html(年月日?))]。調査結果のひとつは次のとおりである。
表1-1 目上の人に呼びかけるときに「あなた」を使うことを、どう思いすか。
・非常に抵抗を感じて遣えない 552 47.9%
・相当抵抗を感じるが、遣うこともある 293 25.4%
・あまり抵抗を感じることもなく遣っている 128 11.1%
・遣ってよい言葉だと思う 78 6.8%
・その他 101 8.8%
・無効回答数 9
出所:1992年度に「共同研究機構委員会」が主催したシンボジウム「文化としての言葉―あなたと私の世界―」を補完する目的で、和光大学学生を対象に行なったアンケート調査 (参考資料:http://www.wako.ac.jp/souken/touzai93/tz9313.html(年月日?)
この結果(表1-1)をはっきり理解するため、筆者は以下のグラフを作ってみた。
図1-1:目上の人に呼びかけるときに「あなた」を使うことを、どう思いすか。[筆者が表1-1に基づいて、作成した。] 首页 上一页 1 2 3 4 5 6 7 下一页 尾页 3/7/7
上記の結果を見ると、「アナタ」が敬意を表しても、目上の人とか、知らない人とかに対して、「アナタ」を使いにくい。「あなた」のかわりに47%の人が相手の役職を呼んだり、仲のよい人の場合、「~さん」を呼んだりする。 もうひとつは、日本の有名な言語学学者、金田一春彦さんは「親戚の同輩に絶対第二人称代名詞の「アナタ」を使うわけにはいかない」と述べた[金田一春彦、『日本語の特質』(岩波書店、1981年)P.76より。]。たとえば、「親、兄、姉、叔父、叔母」の場合、「お父さん、お兄さんなど」を使うしかない。